Anderson Japanese Information 別館

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記事紹介:映像製作者インタビュー ジャスティン・T・リーとリンジー・リー

2023年4月に公開された『ミークシ』の「宇宙線編」に関する、製作のジャスティン・T・リーさんとリンジー・リーさんのインタビュー記事の非公式翻訳です。

※リーご夫妻から翻訳許可を得ました。

news.muographix.u-tokyo.ac.jp

『ミークシ:宇宙線編』短編映画シリーズ(上はµPSを扱った最初の映画へのリンク)は映画製作者と物理学者の創作的なコラボによって製作され、ミュオグラフィにおける新分野を紹介するものである。手作りの人形や、レトロな模型のセット、素晴らしい潜水艦/航空機「メカ」*1を、継ぎ目なくデジタルの特殊効果と組み合わせ、カナダの映画製作者ジャスティン・T・リーとリンジー・リーが説明するのは、ガゼル・オートメーションズのクリエイティヴ・チームとともに、二人がどのように全世代に対する教育的で楽しませる、この注目せずにはいられない映像作品を作ったのかである。『ミークシ:宇宙線編』は英語と日本語吹替で視聴可能である。


――『ミークシ:宇宙線編』のあらすじ、キャラクターと本作におけるアクション/冒険の概要を教えてください。

『ミークシ』は数本の短編映画(ピザ屋の裏の小さな部屋で撮影)で始まりました。これがカナダのテレビ局TVOkidsとともにシリーズ化され、製作はカナダの製作会社シャフツベリーとともに行いました。『ミークシ:宇宙線編』の舞台はにぎわう街ミブキヴィルで、そこには擬人化された動物達が住み、農場のものに発想を得たレトロな技術もある。本作では、ミブキヴィルの新しい海底トンネルが、何千年もの休眠を経た湖底の火山によって脅かされ、羊の科学者のミークシが手遅れになる前に街を救わなければならなくなります!

〈写真註釈:潜水艦ユー2号がミークシの海底トンネルに近づく〉


――なぜ主人公のミークシを科学者にしたのですか? 科学がお二人の人生に影響を与えたり発想の元になったことがあるのですか?

ミークシ〔の名前〕は私達の間の馬鹿げた冗談から生まれました。意図的に二語「meek〔おとなしい〕」と「sheep〔羊〕」を改悪(corrupt)して「miikshi〔ミークシ〕」という語を作りました。新番組の主人公のためにミークシを造ると決めたとき、すぐに彼女に白衣を着せることを思いつきましたが、これは正しいことと思えました。彼女は静かな科学者で、科学に対してとても熱のあるのです。私達がふたりとも科学に対してプロのように追究していないにもかかわらず、私達は宇宙探検や深海探査、海と宇宙の間にある全てのニュースに信じられないほど影響を受けました。私達は『スター・トレック』のようなSF作品のファンでもありました。『スター・トレック』は視聴者の科学への探究心に火をつけ、ときに科学者への道さえも切り開きました。


――新しい『ミークシ:宇宙線編』の着想はどのように得ましたか? この製作における田中宏幸とのコラボについて話してください。

田中宏幸教授のミュオグラフィ分野に関する研究が非常に魅力的だと気が付きました。彼の大規模な3D画像作成に関する論文*2を読み、その技術は全地球測位技術や時刻同期の改良の新しい方法となるもので、『ミークシ』でこの話を描くことで、視聴者の発想の源となり、さらにミュオグラフィが実世界にも応用されていることに対して視聴者が刺激を受けると興奮しました。『ミークシ:宇宙線編』のために、関係するミュオメトリ技術(今回はµPS)から取り組み、その周りに物語を作り上げていきました。映像のために科学をある程度簡素化しなければならないことはわかっていたので(特に登場人物たちが粗野な動物であるため)、田中教授と一緒に製作を行い、この科学的側面がどのように描かれるのが良いのかを確かめました。また、彼にドッグウィン田中教授の声を担当してほしかったです。教授が物語の最後に教えてくれるのは、この技術が実世界の科学でどのように使われ、ミュオグラフィが今日どう研究されているのかです。

〈写真註釈:『ミークシ:宇宙線編』に登場するドッグウィン田中教授〉


――ミュオグラフィとµPS(この新作に登場する技術)について学び始めた時の第一印象は何ですか?

私達がミュオグラフィに惹きつけられたのは、これを学び始めてからでした――今までにミュオグラフィのことを聞いたことはありませんでした! 後に起こることとなるこの素晴らしいこと、つまり作品の終着点は、人々が私達とおなじ反応を示すことでした。私達のクルーは製作を通して皆ミュオグラフィについて学び、そして視聴者が同じように反応しているのも見ました。なぜならその研究分野はこのミュオグラフィのように実世界と密接な関係があり、私達は基本的な概念については考えることができます(私達が科学者でも、羊でも、他の何でもなくても)。

〈写真註釈:ミークシの自宅の実験室の初期のCGデザイン画〉


――『ミークシ:宇宙線編』にµPSを組み込むことで最も大変だった点は何ですか?

私達が一番大事にしたのは、µPSを10-15分の短編映画の中で可能な限り現実的に描くことでした。この技術を紹介する単純化したアニメーションを造るのは大変でした。なぜなら話を続け、登場人物と関連させなければならず、さらに楽しさも伝えなければいけなかったためです。

〈写真註釈:『ミークシ:宇宙線編』からミークシの研究室にて〉


――1960年代のものが、『ミークシ』における、セットや素敵な「メカ」デザインに様々に影響しているようです。この時代の何がお二人を虜にし、私達が当時のものを観た時に学んだり影響を受けたりできるとお二人が考えているものはありますか? その当時以降、人々の科学や技術に対する態度がどのように変わったとお考えですか?

1960年代の多くのデザインは機能性よりも形を優先していました。もしくは少なくとも同じような重要性を持って扱われました。ジュークボックスの縁にクロム合金、車に馬鹿げたフィン……アクション冒険譚を人形とともにお届けするのに補う最適と考えています! テープのリールが回転するのや、表示灯が点滅したり、登場人物が大きなレバーを引いて画面に活力を与えるのを見てきました。そして、ご存知のように、わたしたちは単にそれがかっこよく見えると考えています! 1960年代には、未来に対する関心と楽観が広まっていました。このことは、『ミークシ』の素晴らしい発明に対する楽観的な描写にも現れています。当時を振り返ると、科学と技術がこれだけ変わっていたり、それほど変わっていないものもあると知ることは驚くべきことです。私達が1960年代における未来予想について発見した興味深いことは、今日の技術が当時に考えられていたということですが、全ては一つではなく別々のデバイスによるものということです。しかしながら『ミークシ』の世界においては、一台の機械がそれぞれのことを行ったほうが面白い撮影になります!

〈写真註釈:格納庫内のヘイ・ユー号の撮影〉
〈写真註釈:『ミークシ:宇宙線編』からヘイ・ユー号の操作コンソール〉
〈写真註釈:ミブキヴィル・マリーナの格納庫内のミークシの潜水艦ユー2号〉


――『サンダーバード50周年エピソード』で当時のキャストやスタッフとともに仕事を行うのはどのような感じでしたか? またどのような経験が『ミークシ』のために役に立ちましたか?

2015年に1960年代の『サンダーバード』のエピソードを製作するのは魅力的な挑戦でした。なぜなら50年前にあるチームの人々が発展させていったことを後から学び発見したためです。『ロード・オブ・ザ・リング』『スター・ウォーズ』『ジェームズ・ボンド』等に関わった年配のスタッフもいて、さらに彼らと一緒に働きそして問題解決の過程を見るのは素晴らしかったです。また1960年代のスタッフ何名かが私達のところにやってきて「仕事に戻った」のもとても良かったです。私達の『サンダーバード』の話はITVによる50周年企画の一部であったため、目標は可能な限り1960年代の人形と模型を使った撮影方法を行うことでした。カナダに帰国し『ミークシ』の製作に取り掛かると、本物らしさは追求しましたが、私達の限られた予算と資源の中ではどのような撮影技術でもうまくいくものを使いました。それは手作りの小道具から、デジタルでのセットの拡張やCGアニメーションです。

〈写真註釈:リンジー・リーとジャスティン・T・リーはITVの『サンダーバード50周年記念エピソード』で主導的な役割を果した。この作品は2022年に日本国中で上映された。〉


――ほんの数%のデジタル効果と、手作業で作られた人形や小物やセットで番組を製作していますが、『ミークシ』シリーズを製作するにあたって、「実体的な*3撮影」方法を選んだのは何の影響でしょうか?

『ミークシ』の世界をとても実体的なものにしたかったのです。玩具に命が宿ったような。デジタルでの映画製作が、今日ではそうしたことも向上できますが、私達の持つもので命を宿らせるのに最も効果的なのは、人形や模型をカメラの前に持ってくることです。しかしながら『ミークシ:宇宙線編』は様々なデジタル・ツールの使用をすることで良いこともありました。この作品は私達がAI生成のヴィジュアルとフォトグラメトリを映像製作に取り入れた初めての作品でもあります。

〈写真註釈:製作準備段階の美術部門の机。模型のディテールのための転写シールや、クランペット博士の初期のスケッチ〉
〈写真註釈:『ミークシ:宇宙線編』に登場するクランペット博士〉
〈写真註釈:ミークシの潜水艦ユー2号のデザイン画。話が進むに当たり、この潜水艦はクランペット博士のものとなった(そのためH4M SUBのマーキングがある)。〉
〈写真註釈:塗装に向けて3D印刷された潜水艦ユー2号が整えられヤスリがけをされる。〉
〈写真註釈:完成した潜水艦ユー2号。デザイン:ジャスティン・T・リー、組み立て:ジョン・アンダーソン〉
〈写真註釈:リンジー・リーがドッグウィン田中の人形の作業を行っている〉
〈写真註釈:フォトグラメトリ技術が実物の人形と模型をCGに取り入れる際に使われた〉


――この先の計画を教えてください? 『ミークシ:宇宙線編』の話は続きますか?

すでに『ミークシ:宇宙線編』の製作は行われています。完成したらすぐにでも公開したいです。ありがとうございました!


ミークシ公式サイト:https://miikshi.com/films
µPS(大衆向け)https://www.newscientist.com/article/2300571-us-navy-is-developing-gps-that-uses-cosmic-rays-to-navigate-the-arctic/
µPS(学術的記事)https://www.nature.com/articles/s41598-020-75843-7

*1:原文でも「“mecha”」と引用符付きでメカと記されている。

*2:原文は「large-scale 3D imaging」。

*3:触れて感知できる、CG等のコンピュータで作られたものの対義語として原文で使われている。